全身を一気に鍛えることのできるデッドリフトの詳しいやり方、メニューの組み方を解説していきます。ここでは特に、床に立ち床からバーを引き上げるオーソドックスなデッドリフトであるコンベンショナルデッドリフトについて紹介します。(他にもワイドデッドリフトや、バーの初期位置と効果の違う派生のトレーニングが幾つか存在します。これらは記事の最後に簡単に紹介します。)
デッドリフトは筋力強化、筋肥大、運動機能強化などをするのに最も効果的なトレーニングの一つです。全身を使ってのトレーニングなので体全体を効率的に強化していくことができます。
[1]広背筋、僧帽筋、脊柱起立筋、ハムストリング、大臀筋など全身を鍛えることができ、背筋を効率的に鍛えることができるトレーニングとなっています。
前述の通り、ここで扱うのはコンベンショナルデッドリフト(ナローデッドリフト)です。以下これをデッドリフト、及びノーマルデッドリフト、と呼びます。デッドリフトは、いわゆるBIG3(ベンチプレス・スクワット・デッドリフト)の中でもっとも高重量を上げやすい種目です。下半身、背筋で爆発的な力を生み出すトレーニングで全身を一気に逞しくすることが期待できます。後述する様々なバリエーションや扱う重量の調整によって、単に逞しくするだけでなく、脂肪を落とす、シェイプアップする、など目標に合わせた効果的なトレーニングになります。
ここではデッドリフトの正しいやり方について、重要となるポイントを細かく分けて解説していきます。1つずつ実践して正確なフォームを身につけてください。
デッドリフト中は膝の向きとつま先の向きを必ず揃え、つま先は正面に向けておきましょう。
胸を張り肩甲骨を寄せ、背中は一枚の板の様に真っ直ぐに保った上で上体を地面に対し45度程度に傾けます。この時太ももと腹部でものを挟める程度の関係を作るのが良いフォームです。単に角度をそうするだけでなく挟んだものを押さえつけられる様腹圧を高めてください。
デッドリフトでは顔を上げて正面を見るのですが、首だけかくんと曲げるのではなく背中の真ん中から上を向くイメージを持ってください。
脛の角度は、地面に対し垂直から少し前傾する程度です。デッドリフトにおいてバーを引き上げる時には後方にバク転をするイメージで力を入れます。ですから脛を前傾させすぎるのはNGです。
両足の外側でかつ脛の付近を握ります。グリップの握り方は複数あり、こちらは後述します。
上体の傾きは変えず、腰の位置を上げる、すなわち脛(すね)と太ももの角度を大きくしていくのと一緒にバーを膝まで上げます。この時腕や背中は脱力した状態で、臀筋(お尻の筋肉)やハムストリング(太腿の裏の筋肉)から力を生むのですが、足から地面に伝える力の向きは真上ではなく後方の斜め上です。バク転をする際の向きと似ています。
⑴ のバーを膝まで上げる動作においては、背中の筋肉ではなく下半身の筋肉だけを使っていました。転じて⑵においては、 背中の筋肉を総動員して上体を起こしていきます。腕力で持ち上げるのでなく腕は真っ直ぐのままで、起き上がる上体にバーがついて上がって来るイメージです。常に胸を張って、背中を真っ直ぐに保ちましょう。バーを上げきったら、肩甲骨を限界まで寄せて背中の筋肉を最大限収縮させましょう。
(2)でのヒップヒンジの動きをなぞってバーを下ろしていきます。(7)・(8)の動き(下半身→上半身という順に身体を起こす)を逆から行うイメージを持てば分かりやすいです。この際にも背中を真っ直ぐにし肩甲骨を寄せた状態を保つ様にしましょう。
デッドリフトを行う際に何よりも大事なのは、「バーを上げる際に背中を真っ直ぐに保つ」ことです。背中を曲げてしまうフォーム、言い換えれば背中が丸まって上に上がっていくようなフォームや、反りすぎてしまっているフォームは腰に大きな負担をかけてしまいます。負荷の大きい重量で行っていたとしたら、治癒に数ヶ月単位の時間を要する怪我につながってしまうこともありえるのです。怪我を防ぐためにも、必ず背中はまっすぐに保つようにしましょう。
バーを上下する位置も大切です。実は脛(すね)に沿ってすれすれで動かすと最も効率的に力を伝えられます。逆に脛から離した位置で行うと、重量に負けて背中をまっすぐにキープすることが難しくなります。重量を扱うためにも、背中をまっすぐに保つためにも、動作は脛ギリギリのところで行いましょう。
この状態をスラックと呼びます。あごを上げる際には首から曲げるのではなく、背中の真ん中を起点にして首、頭を上げる意識を持ってください。また、肩自体を下に下ろすイメージを持ちながら、肩がすくまないように肩甲骨を寄せてあげましょう。
肩甲骨同士を引き寄せるフォームは他の色々なトレーニングにおいても重要となります。肩甲骨のポジションは上半身の姿勢を決めて安定させる上で大きな役割を持ち、ベンチプレスや懸垂、様々なスポーツの動作で効率的に力を伝えるのに必要です。
これはあらゆるメニューに共通なのですが、姿勢を安定させ力を出す為には腹圧を高めることが重要です。スポーツやトレーニングをしたことのある方なら誰もが、「体幹を入れなさい」と言われたことがあるでしょう。ですが「体幹を入れる感覚」というのはなかなか分かり辛いもので、「実際何をすればいいの?」と思う人も多いかもしれません。
体幹を入れる、というのは単に腹筋に力を入れることではありません。「う」という声を一瞬大きく出してみてください。その時体幹が入った状態になっています。腹筋に力が入るのはもちろんですが、横隔膜を広げて腹部が外に押され(これが腹圧が高いということです)、なおかつ呼吸はできる状態が体幹が入った状態なのです。ですがこれをマスターするのは一朝一夕にはできません。日常から意識する、トレーニングの際にはできる範囲で意識する、体幹トレーニングをする、など工夫しながら少しずつ身につけていってください。
デッドリフトをおこなう際で,お尻(股関節)をつかって上げる意識が必要となります。しかしながら,デッドリフトをやっているほとんどのトレーニーが腰で挙げており,背中や腰などを傷めるフォームでおこなっています。お尻をしっかりつかっておこなうには,かかとで地面を押すようにして拳上するとおこないやすくなります。
スタートの姿勢を作れないとしっかりとお尻(股関節)を使って挙げることは出来ません。また,この姿勢を作るにはハムストリングや大殿筋などの柔軟性が必要になります。しかし,その人の柔軟性だけではなく四肢や体幹部の長さによっても個人によって必要となってくる柔軟性は異なってきます。特に脚の長い人や腕が短い人は最初のスタートポジション(肩甲骨を寄せる,しっかり胸を張る,背骨を真っ直ぐにする,お尻を突き出す)がとりづらいことが多いです。
そのため,しっかりと柔軟性を向上させることが重要となってきます。この柔軟性の向上にオススメしたいのがルーマニアンデッドリフト と腰をしっかりとシートにつけておこなうレッグプレスになります。この種目はデッドリフト以外の種目にも非常に重要となります。
柔軟性が足りない人には,トレーニング前後にバーベルをもって立った状態でおこなう前屈やスミスマシンのバーベルを担いでおこなうヒップヒンジをおこなうと柔軟性を上げるストレッチとして有効です。ストレッチは退屈だったり,1人でおこなうにはしっかりと伸ばせないことがありますが,10~20kg程のバーベルやスミスマシンを使うことで一人でも十分なストレッチをおこなうことが可能です。
また,柔軟性が足りない状態でデッドリフトをやりたい場合はスタートの姿勢がとれる位まで,セーフティバーでスタートポジションの高さを上げたり,ラックにバーベルをセットしてからそれを持ち上げて後方に下がってからおこなうようなトップから始めるデッドリフトをおススメします。
*ハーフデッドリフトについてはこちら
デッドリフトは上半身・下半身いずれの筋肉も鍛えられるトレーニングです。上半身の筋肉では広背筋、僧帽筋、脊柱起立筋、要は背中全体の筋肉が鍛えられます。これらは美しいシルエットの背中を形作るのには不可欠です。また、下半身の筋肉では大臀筋(お尻の筋肉)・大腿四頭筋(太腿の前側の筋肉)・ハムストリング(太腿の後ろ側の筋肉)が鍛えられます。鍛え方によってお尻を含めた下半身のシェイプアップや逞しい足を育てるといった効果があります。また,床引きで正しいフォームでおこなえば柔軟性の向上にも繋がります。
デッドリフトは腰や指に負担のかかるトレーニング種目です。その為それを補助する道具がいくつかあります。腰が曲がらないように支えるトレーニングベルトと、バーを持つ手を保護するグリップです。これがあればよりデッドリフトに集中して取り組めるでしょう。
腰に巻くことで背中の筋肉(主に脊柱起立筋)が補強され、腰にかかる負担を減らすことができます。また物理的に体幹を補強することができるので重量を上げるということに集中でき、デッドリフトやスクワットなどの種目で疲労が出る終盤の追い込みでも体がブレない様にすることができます。巻く際はゆる過ぎても意味がありませんが、きつすぎても運動の妨げとなるので適度なきつさを模索してみてください。
姿勢を支えるのに便利なトレーニングベルトですが、過度な使用については注意も必要です。トレーニングベルトの使用は、本来体幹を使うことで支えるべき体を補助具で補うことを意味します。ところが体幹で体を支える動きはあらゆる種目・スポーツで共通して必要なことで、それはトレーニングの重量を上げる中で身につけていかなければならないことでもあります。このことを理解しながら、上手にトレーニングベルトを利用してください。
デッドリフトや懸垂などの種目では指・手にも力がかかる為、鍛えたい筋肉の疲労より先に握力の限界が来てしまうことがあります。そうならない様に手首にバンドを巻いて固定し、指・手を保護するのがパワーグリップです。滑りにくくもなるので、バーを握ることに煩わされずにトレーニングできます。握力を必要とする様々な種目に汎用性があり、女性にもおすすめの補助具です。
デッドリフトのグリップの握り方は3つ存在します。自分に合ったグリップを見つけて、効果的にトレーニングをしていきましょう。
両手共に順手の握り方。鉄棒の前回りの際の握り方のイメージ。バーの上から両手で握り、握りこぶしに親指を重ねます。この握り方では、バーが手の中で回転しそうになるのでやりにくいです。
初心者に一番おすすめの握り方です。片方の手は順手、もう片方の手は逆手で握ります。親指は①と同様、握り拳の上から重ねましょう。この握り方はバーが回らず安定するので、とてもやりやすいです。ただし慣れるまではバランスがわからず左右均等に重量を支えるのに苦労します。軽い重さで慣らしてから負荷の高いものに挑戦しましょう。
両手とも順手で上から握り、拳の中に親指を入れる握り方。握るというより指にバーを引っ掛ける持ち方ですが、指を鍛えないと痛みを覚えることがあります。
※グリップの種類について詳しく解説した記事はこちら。
目的別のデッドリフトの重量や回数の目安は後述しますが、これからデッドリフトを始めようという方は目標重量などの設定が難しいかもしれません。そこでの目安なのですが、一回上げられる最大の重量は、
となります。
デッドリフトに慣れていない人はこれと照らし合わせて、おおよその最大重量を考えてください。そしてはじめは重りをつけずバーだけからフォームを確認し、徐々に重量を上げていってください。フォームが崩れない自信がつくまで限界に近い重量は上げない様にしましょう。安定してきて目安重量の80%がきっちりできる様になったら、少しずつ重さを上げて一回上がる最大の重量を見つけてください。そこから目標重量が設定できます。
※こちらの記事も参考にしてみてください。
デッドリフト を行う際は、筋断面積・筋力・筋持久力のアップ、脂肪の燃焼など掲げる目標によって、必要な負荷・回数・セット数が異なります。以下、目的別の負荷・回数・セット数を紹介します。理解を深めて、理想のボディを手に入れてください。
背中や足の筋肉をとにかく大きく、逞しくしたい人にオススメの目標設定です。
8回から12回が限界という負荷をかけ、それ以上は1回も繰り返せない状態まで追い込みましょう。3分〜5分程度のインターバルを挟み3~6セット繰り返します。インターバルについては短すぎても次のセットで回数をこなせない場合があるので目標のセットが達成できるくらいはインターバルを取りましょう。
筋肉を大きくせず、自分が今持っている筋肉でパフォーマンスを最大化させたい人にオススメの目標設定です。とにかくデッドリフト の挙上重量を伸ばしていきたい方におすすめです。
1~5回しか行えないくらいの高負荷をかけることで、瞬発的なパワーを爆発させ、筋力アップを狙うことができます。負荷が大きく回復にも時間がかかるため、3~5分程度のインターバルを挟み、2~6セット繰り返しましょう。
太さやたくましさではなく、引き締まった身体を目指す人にオススメの目標設定です。スポーツのために持続力が必要な方やダイエット目的の方にオススメの目標設定となります。
15~20回程度繰り返すことのできる余裕をもった負荷に設定することで、すっきりと引き締まったスタイルを狙えます。30秒~1分の短いインターバルを挟み、2~3セット繰り返しましょう。
スポーツの競技力向上においてはデッドリフトのようなお尻をメインとした体の多くの筋群を用いたトレーニングは非常に重要な種目になります。しかし,ボディメイクという点においては,スクワットやベンチプレスに比べておこなっている人は少ない傾向にあります。理由としては,股関節と膝関節の伸展が主な動きとなることが考えられます。そのため,このデッドリフトで刺激される筋群はパラレルスクワットと被る箇所が非常に多いです。
そのため,広背筋や大円筋といった肩幅や背中を広く見せることが出来る筋群にしっかりとした刺激を与えることは難しいです。さらに,デッドリフトは脊柱起立筋に関しても,筋トレ初級者レベルに対しておこなった研究(2)では,ルーマニアン・デッドリフト,コンベンショナル・デッドリフト,パラレル・スクワットを筋電図を用いて固有背筋の筋活動を見た時に,いずれも同様の筋活動が観察されました。
そのため,人によっては背中の厚みを作るのに有効かもしれませんが、大円筋や広背筋といったかっこいい背中を作ることを目的とする場合は特別効果的な種目ではないため,ベンチプレスやスクワットに比べておこなう人が少ない,もしくはトップサイドのデッドリフトをおこなう人が多いのかもしれません。
また,高重量でたくさんの筋群を刺激できる分,他の筋群が疲労してしまって、その筋群に大きな負荷をかけられなくなることもある(腹筋など)ので、トレーニングプログラムを組む時は考慮が必要になってくるでしょう。例えば、脊柱起立筋などの背中の筋肉のみに負荷を与えたい場合は、股関節や膝関節を曲げて大臀筋の働きを抑えておこなう加重バックエクステンションで代用するといった方法があります。
腕の外側に足をおくワイドなスタンスのデッドリフトです。上半身はあまり使わず、大腿四頭筋、ハムストリング、大臀筋に加えて内腿の内転筋に刺激を与えられます。バーベルを使わずダンベルを用いるスモウデッドリフトもあり、こちらは高負荷では行わず内腿の筋肉も使うので、足周りのシェイプアップにおすすめです。
床から始めるのではなく、バーを膝下から持ち上げ膝下に下ろすデッドリフトです。膝をあまり曲げず股関節伸展の動きがメインとなるトレーニングで、ハムストリング・大臀筋を鍛えることができます。ノーマルデッドリフトが背中を中心とした爆発的な力を生む為のトレーニングであるのに対し、ルーマニアンデッドリフトはその半分ほどの重量で行うのが良いとされています。筋肉を鍛えるのはもちろん、ダイエットやシェイプアップにも効果的です。
その名の通り片足立ちで行うデッドリフトで、両手でダンベルを持って行います。軸足の曲がり方やバーの上下のレンジはルーマニアンデッドリフトと同じですが、頭から地面に付いていない方の足まで一直線の姿勢を保つ為にハムストリングに加えて全身の筋肉、体幹を鍛えることができます。
以上、デッドリフトの方法や注意点について詳しく解説してきました。
デッドリフトは高重量を扱う種目である分、怪我を防止して効果を最大化する正しいフォームを身につけることが何より大事になります。慣れないうちは難しいことも多いですが、マスターして背中や下半身を効率的に鍛えていきましょう。
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